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私がイタリアの複葉機に魅かれた理由 (2)

―ジョルジョ・ボナートと「第87 SVA航空部隊」との出会い―

16 DEC 2018

さて、フェリーチェ・リモザーニ氏から紹介されて、100年前の複葉機再現プロジェクトに興味を持った私は、夏のバカンスが終わったその年の9月1日、北イタリアヴィチェンツァ県のバッサーノ・デル・グラッパ市にジョルジョ・ボナート氏(Giorgio Bonato)を訪ねました。

彼は、父のカルロ氏が創業したボナートファミリーが経営している大きなアクリル工場の一角を、間借りするような形で、飛行機を製造し修復するための工房として使っていました。 2016年にカルロ氏がお亡くなりになった後は、彼は兄のルーカ氏と工場を分けて再編し、現在は同じ敷地内に、複葉機製造に専念するための工場”hangar fusina”を作り、運営しています。(「世界ふしぎ発見!」で紹介されていた工場です)
www.hangarfusina.com
www.lampicreativi.it/carlo-bonato-pensieri-luminosi

更にそこから約16km離れたティエーネ市飛行場には、「ローマ東京ハンガーミュージアム」( Roma Tokyo Hangar Museum )と名付けられた、新しく彼が建設したモダンな格納庫&アーカイブ保管所があり、そこも案内してくれたのです。

私は、その「ローマ東京ハンガーミュージアム」で、私費を投じて飛行機制作をするボナート氏を中心に、その前年の1月に結成されたアソシエーション「文化協会 第87ズヴァ航空部隊」 ( Associazione culturale 87a Squadriglia SVA )のメンバーに初めて会いました。

ジョルジョ・ボナート氏は、寡黙で、いかにも一徹な職人気質を体現している人で、幼い頃からの飛行機好きの情熱を心の底に秘め、今も大切に温め続けていることが分かりました。工房では、複葉機のオリジナル設計図や、出来上がったパーツや、複葉機製作に使うために世界中から集めた木材のストックなどを見せてくれました。

アレッサンドロ・マランゴーニ氏(Alessandro Marangoni)は、博識で優れた記憶力の持ち主で、中世から現代まで世界中のすべての戦争の歴史について、いかなる質問にもすぐ答えが返ってくるという超オタクで、プロドライバーとしてマツダRX8や日産350Zでヨーロッパのレースに参加した経験があり、トレントに格納庫を持っていて、パイロットとして小型飛行機を何機も所有しているコレクターです。

会長のジュリアーノ・バッソ氏(Giuliano Basso)は、イタリアらしいカッコいいデザイン感覚でアソシエーションのプロジェクトのプレゼンテーション全般を手がけ、飛行機の制作過程などの映像を取り、記録係と広報責任者をつとめていました。彼は、自分の会社を持ち、インダストリアルデザイナーとして創造力溢れる仕事をしていて、人生を楽しみ、ユーモアと皮肉にあふれたおしゃべり好きの人。 www.bassodesign.it

建築家のステファノ・アッツォリン氏 ( Stefano Azzolin )は、展示会のディスプレイの作業中に起きた事故によるケガの後遺症で下半身不随になりましたが、自分用の小型飛行機を独自に設計・製作して自家用機を操縦するパイロットです。口数が少ない沈思熟考型のイケメンです。

彼らは、皆、少年の夢を持ち続けたまま大きくなったようなおじさん達で、それぞれの強い個性とキャラクターは、そのまま映画かアニメのモデルになりそうで、しかも私と同世代なので通じ合うものを感じました。私は飛行機に関しては全くの素人ながら、彼らの話を聞きながら、飛行機に対する夢と情熱とこだわりをひしひしと感じて、すっかり彼らの活動に魅せられてしまったのです。

そして、遊び心をもって夢を追求しながらも、空を飛ぶ機械は一歩間違えば重大な事故につながるという自覚と責任感を持ち、何よりも飛行機の歴史や先人のパイロット、アルトゥーロ・フェラリン達に対する大きなリスペクトを持ちながら活動をしていることがひしひしと感じられて、思わず襟を正したくなるような気持ちにもなりました。

以降、私は、彼らと親交を結び、行動を共にし、このプロジェクトを紹介する第87ズヴァ航空部隊文化協会のイタリア語のパンフレットを、ボランティアで日本語に訳しました。

特に、2016年5月20,21日の二日間にわたりティエーネ「アルトゥーロ・フェラリン」飛行場敷地内で行われた、「ローマ東京ハンガーミュージアム」オープニングセレモニーと「第87 SVA航空部隊」プロジェクト公発表会は、在イタリア日本大使館の後援を得ることが出来ました。 そのほか、イタリア空軍、ヴットリアーレ英雄歴史博物館、アンサルド財団、ヴェネト州、ティエーネ市、ティエーネ飛行場、カプローニ航空博物館などの後援、協力を得て盛大に行われました。

2016年は、日本とイタリアの外交関係樹立150周年にあたり、「日本イタリア国交150周年」のさまざまな記念事業が日本とイタリアの各地で盛大に行われましたが、「ローマ東京ハンガーミュージアム」のこのオープニングセレモニーも、記念事業の一環として承認されたのです。 この二日間にわたるセレモニーでは、来賓あいさつの他、講演会、歴史劇の上演、ミラノベルサリエーレの演奏会、飛行機愛好家達によるデモンストレーション飛行、ピアノとジャズ演奏やロックコンサートなども行われました。 私もこのセレモニーで挨拶をさせていただきました。「風景とSVA複葉機」と題した油絵の展覧会にはローマ文化会館の後援をたまわりました。

 

100年前の「ローマ東京間飛行」に関する日本とイタリア双方の歴史を調査し、フェラリン家の人達に会いお話を伺ううちに、私はどんどんアルトゥーロ・フェラリンの熱烈なファンになり、プロジェクトに深入りしてゆき、気が付いたら、いつの間にか私も「文化協会 第87ズヴァ航空部隊」のメンバーの一人に迎えられていたのです。

私がイタリアの複葉機に魅かれた理由 (3)


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